2019年NHK交響楽団定期演奏会ベスト3
第1位:11月Aプログラム ヘルベルト・ブロムシュテット 指揮
曲目: ステンハンマル ピアノ協奏曲第2番 ピアノ独奏:マルティン・ステュルフェルト ブラームス 交響曲第3番へ長調 作品90
第2位:10月Aプログラム 井上 道義 指揮
曲目: グラス 2人のティンパニストと管弦楽のための協奏的幻想曲(2000) ティンパニ独奏:植松 透、久保 昌一 ショスタコーヴィチ 交響曲第11番ト短調作品103「1905年」
第3位:6月Aプログラム パーヴォ・ヤルヴィ 指揮
曲目: マーラー 歌曲集「子供の不思議な角笛」(抜粋) バリトン独唱:マティアス・ゲルネ ニルセン 交響曲第2番「4つの気質」 次点:2月Aプログラム パーヴォ・ヤルヴィ 指揮
ベスト指揮者:ヘルベルト・ブロムシュテット
ベスト・ソリスト:マティアス・ゲルネ(バリトン)選択の理由
NHK交響楽団が行う年間27プログラムの定期演奏会うち、NHKホールで実施される18回の公演を全部聴くことを目標に行動しているのですが、2019年は目標通り18回の聴取となりました。
近年のN響の特徴ですが、あまり演奏されない曲を演奏するようになっているということです。本年聴いた18回の演奏会で合計49曲が演奏されたのですが、この中で、私が全く初耳だったという曲が、16曲ありました。録音では聴いたことがあるけれども、実演では初めてという曲も3曲、その他、初聴ではないけれども、ほとんど20年ぶりで聴いた、という曲もありました。初聴の数は、一昨年が13、昨年が19でしたから、昨年並みということだと思います。「N響のプログラムは保守的」と評価されていた時代もあったのですが、最近は全然違います。かつて、小澤征爾だったと思いますが、何かのインタビューで、「ひとつのオーケストラを300回振ると、オーケストラの主要なレパートリーは一通り演奏する」と言っていたのですが、その2倍弱の演奏会に通って、これだけ初聴の多いというところに、最近のN響のアグレッシヴな姿勢が分かります。
さて、個々の感想のまとめです。
本年は、1月にまず、ステファヌ・ドゥネーヴとトゥガン・ソヒエフが登場しました。ドゥネーヴは、フランス音楽中心の華やかなプログラム。比較的短い4曲が演奏されましたが、最後に演奏されたレスピーギ「ローマの松」が、表現の多様さで素敵な演奏だったという印象です。ソヒエフは「イタリアのハロルド」をメインにおいて、あとはグリエールのハープ協奏曲と小品。ハープ協奏曲のソロ、グザヴィエ・ドゥ・メストレの技術の素晴らしさに感心しました。
2月は、首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィ。Aプログラムは、リヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン協奏曲にハンス・ロットの1番という超珍曲の組み合わせ。ロットの1番の歌謡性がヤルヴィの特徴によく似合っていて良好。Cプロは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番にプロコフィエフの6番という、今年の中では割と普通のプログラム。とは言うものの、プロコフィエフの6番は、20年ぶりの聴取でした。
4月はヤクブ・フルシャと山田和樹が指揮台に立ちました。フルシャは、ベルリオーズの歌曲「クレオパトラの死」を間において、前半を「ツァラトゥストラ」、後半をヤナーチェクの「シンフォニエッタ」という組み合わせ。「ツァラトゥストラ」の比較的抑制的な演奏と「シンフォニエッタ」の開放的な演奏の違いが楽しい。山田は、平尾貴四男が第二次世界大戦中に作曲した「砧」と、戦後日本を代表するピアノ協奏曲と言われる矢代秋雄の作品、それにシェ―ベルグの「ペレアスとメリザンド」を取り上げました。日本音楽に詳しい山田は、日本の曲に素晴らしい相性を示したものと思います。
5月は、エド・デ・ワールトとパパ・ヤルヴィ。デ・ワールトは、メインにジョン・アダムスのミニマル音楽「ハルモニーレーレ」をメインに持って来たのですが、曲が面白く、演奏を聴いていても楽しい。Cプログラムのネーメは、「ぶらよん」をメインに据えた演奏でしたが、そのテンポが普段聴く「ぶらよん」とは全く違っていて、仰天しました。
6月は、首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィ。Aプログラムは、マーラーの「子供の不思議な角笛」からの抜粋と、ニールセンの交響曲2番「四つの気質」。「角笛」は、マティアス・ゲルネのバリトン独唱がほんとうに素晴らしく、聴き応えがありました。ニルセンは、四つの楽章の特徴をよく示した演奏でよかったです。Cプログラムは、バッハの「リチェルカータ」、ベルグのヴァイオリン協奏曲、そしてブルックナーの3番という、なかなか聴き手を選ぶけど、今年の中では割と普通のプログラム。シャハムのヴァイオリンが素晴らしかったベルグ、パーヴォの音楽性とN響の技術が上手に絡み合ったブルックナーと素敵な演奏会でした。
9月もヤルヴィが登場。Aプロはオール・ポーランドプログラム。ルトスワルスキの「オケ・コン」をようやく実演で聴けました。満足です。Cプロはリヒャルト・シュトラウスの歌劇「カプリッチョ」の「最後のモノローグ」とマーラーの5番。マーラーは曲の持つ特徴とパーヴォの音楽性の方向性が一致しているのか、ちょうどよいあざとさの演奏になりました。
10月は井上道義と今年二度目のソヒエフ。井上は、グラスの「二人のティンパニストのための協奏曲」とショスタコ11番。リズム感覚が素晴らしく、ショスタコを集中的に演奏している井上ならではの選曲で、どちらも素晴らしい演奏。今年二度目のソヒエフはラフマニノフの「パガニーニ変奏曲」とチャイコフスキ―の4番。ソヒエフの個性がよく分かる演奏でしたが、それが曲の魅力に繋がっていたかと言われれば、「?」です。
11月は桂冠名誉指揮者のブロムシュテットの登場。今回も90歳越えの指揮者とは思えないみずみずしい音楽を聴かせてくれました。特にAプログラムのブラームス3番はほんとうに名演奏。Cプロのモーツァルトの「リンツ」と「大ミサ」ですが、リンツは昨年の「プラハ」がほどではなかったし、「大ミサ」も最高とは程遠い演奏。合唱が足を引っ張った感じです。
12月は例年デュトワの月ですが、本年もデュトワはお休み。デュトワは活動を再開しているようですが、N響への再演はいつになるのでしょうか。ちなみに本年の指揮者は、Aプロはバロック音楽のスペシャリスト、鈴木優人とディエゴ・マテウス。鈴木の演奏で一番しっくり来たのは彼の本来のテリトリーの音楽であるコレッリ「クリスマス協奏曲」。そしてメンデルスゾーンの「宗教改革」もよかったです。マテウスは「真夏の夜の夢」序曲に、グラズノフのヴァイオリン協奏曲、「幻想交響曲」というプログラムでしたが、どの曲も堂々としたスケール感を示した演奏でよいものでした。
さて、ベスト3の選択ですが、例年通りトーナメント方式で絞っていきましょう。
1月のドゥネーヴとソヒエフ。甲乙つけがたいところですが、ハープ協奏曲のソロの魅力を買ってソヒエフを取りましょう。2月は珍曲の組み合わせですが、パーヴォの特徴と曲の特徴とがマッチしたAプログラムを取りましょう。
4月はどちらも若い指揮者ですが、演奏の方向性が違うので、両者ともに捨てがたい。眼を瞑ってフルシャを取ります。5月は文句なしでデ・ワールト、6月はゲルネの素晴らしいバリトンの魅力でAプログラムにします。
9月はACともに素敵な演奏でしたが、自分の好みでAにしましょう。10月は文句なしで井上。11月はAプログラム。12月はマテウスを取りましょう。
1月のCプログラムとと2月のAプログラムとの比較ですが、これは文句なしで2月。4,5,6の3か月では4,6の勝負だと思います。どちらも捨てがたいですが、6月Aプログラムを取りましょう。9月と10月。井上道義を取りましょう。11月と12月とでは、ブロムシュテットのブラームスを取りたい。
この段階で残ったのが、2月Aプログラム、ヤルヴィ指揮のハンス・ロット、交響曲1番をメインとしたプログラム。6月Aプログラム、マーラーの「子供の不思議な角笛」からの抜粋と、ニールセンの交響曲2番「四つの気質」。10月Aプログラム。井上道義のグラス&ショスタコ、そして、11月のブロムシュテット指揮「ブラームスの第3番」メインのプログラム。
結果として、本年の特徴である珍しいプログラムの曲がたくさん残りました。それだけ珍しい曲の一年だったのでしょう。とはいえ、一番良かったのはブロムシュテットの「ぶらさん」だったように思います。そこで、1位はブロムシュテット、2位は井上、第3位は6月Aにしましょうか。次点は2月Aになります。
ベスト指揮者はヘルベルト・ブロムシュテット、ベスト・ソリストはマティアス・ゲルネにいたしましょう。
2019年12月30日記
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