七人の孫

さわりの紹介

 北原亮作は自分の部屋で、画を描いていた。昨日から描き続けている青いリンゴである。一向に気が乗ってこなかった。どんな場合でも、画を描きはじめると、たちまち、それに熱中できる亮作なのだが、きょうだけは、別であった。無理も無い。亮作の頭脳の中には、昨夜、ついに、家へ帰らなかった一郎と節子の顔が、しきりと点滅していたのである。
 亮作は、心の中で、
(一郎のバカ者めが)
 と、言っていた。
 いよいよ、一郎をきたえ直してやらねばならぬ、という気になってくるのであった。しかし、節子に対しても、
(無断で家を出るのは、ケイソツすぎる)
 と、思わずにはいられなかった。
 なるほど、一郎からあんな電話があったら、妻として、また嫁として、この家にいたたまらなかったかもしれない。それにしても、せめて一言、自分に耳打ちしてからのことにしてほしかった。
 そのことが、昨夜も家族が集まった席で、問題になったのである。
「もちろん、一郎もいけません。しかし、節子だって、黙って、家を出るのは困ります」
 と、里子が言った。
「そうだよ」
 と、雄吉も苦りきっていた。
 雄吉は、午前からよそをまわって、そのまま、会社へ戻らずに、家へ帰ったのである。一郎とは同じ会社にいるのだが、一方は社長であり、一方は社員であり、部屋が違う。雄吉は何も知らずに家へ帰ってきたのであった。
「あたしは、よくよくの原因があるから、一郎も、あんな非常識なことを言い出したんだと思うんですよ」
「何か、思いあたることがないかね?」
「それが・・・・・。ただ、この数日、どうも、節子の顔色がよくなかったような気がするんですけど」
「そういえば、そんな気がしたな」
「これで、あすも一郎が帰らなかったら、ほっとくわけにもいかないし、とにかく一郎の言うとおりにしてやりましょうか」
 亮作がはじめて口を出した。
「ということは、節子を離縁することかね?」
「ええ、まア」
「わしは、絶対反対だよ」
「だって、おじいさん」
 と亮吉が言った。
「この家で、嫁と息子とどっちがたいせつか。と言えば、それは息子のほうにきまっていますよ」
「いや、そうとはきまっていないはずだよ。いったん嫁に貰ったら、二人とも家の者だ。差別をつけるのはおかしい」
「まア、リクツはそうですが」
「リクツがそうなら、実際もそうであっていいはずだ。だいたい、一郎はいかん。死ぬの、生きるのと言って貰った嫁を、たった二ヵ月ぐらいで、もう顔を見るのもいやとは、なんたることだ」

Tの感想・紹介

 「七人の孫」は、1955年に5回に渡って雑誌「面白倶楽部」に連載された長編小説です。内容は典型的ホームドラマであり、家庭内の波風は当然あるものの、悪人や典型的敵役は登場せず、全体におっとりとしたトーンでまとめられています。後年TBSで、ナショナル劇場「七人の孫」として半年間放映されて、典型的ホームドラマとなったのは、むべなるかな、と思います。

 なお、テレビ版の基本的情報を先に書きますと、放映日が1964.1.6〜7.6の全26回で、1時間番組でした。脚本は相良準と向田邦子、演出が山本和夫。主な出演は、森繁久彌、大坂志郎、加藤治子、勝呂誉、いしだあゆみでした。

 主人公は北原亮作75歳。今は息子の亮作が社長をしている会社の社長を引退して、離れの8畳で読書をしたり、趣味の画を描いたりして暮しています。奥さんには先立たれていますが、子供が二人(雄吉と英子)、それぞれの子供に三人ずつ子供がいますので、孫が6人になります。亮作は、生涯を通じて糟糠の妻、貞子を愛していましたが、学生時代には、秋田の豪農の一人娘、安川千鶴子と恋愛し、彼女を妊娠させたことがあります。しかし、千鶴子の両親は、貧乏な学生との結婚を許さず、二人の仲は終ったのでした。したがって、亮作は、自分には子供がもうひとりいて、その子供が生んだ孫がいるのではないかと考えています。

 雄吉の長男、一郎は喫茶店のウェイトレス・新井節子と恋愛関係にあり、結婚したいと思っていますが、両親は許しません。おじいさんである亮作は、節子の人柄を見て、一郎のお嫁さんとしてふさわしいと思いました。亮作は、節子を自分の絵のモデルになってもらって、家族にその人柄をアピールし、一郎と結婚出きるように段取りをつけます。

 結婚した節子は、とてもいい人柄で、家族によく尽しますので家族の評判は抜群だったのですが、夫の一郎は新妻を家族に取られたようで面白くありません。夫婦喧嘩をして、一郎は妻が家に居る内は帰宅しないと言い出します。それを聞いた節子もショックで家出します。家出した先は、学校友達の安川美穂子のアパートでした。

 この安川美穂子こそが亮作の七人目の孫でした。美穂子は両親と死別しており、恋人との結婚を諦めようとしています。亮作は美穂子の恋愛を成就させるために自分の孫であることを認め、その結果美穂子の結婚も上手く行くのでした。

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