最高殊勲夫人

さわりの紹介

 三郎は、嫂としての桃子を、嫌ってはいない。いや、寧ろ、好きな方であったろうか。が、すこし、世話を焼きすぎる。出しゃばり過ぎる。家庭のことだけでなしに、会社のことについても、その傾向がある。尤も、思いがけず、社長夫人になれたので、嬉しさのあまり、つい調子に乗っているのかも知れないが、社長夫人が、会社のことに口を出すのは、最もいけないことだと、三郎は、かねてから思っていた。その点、一郎たる者、固く警めたらいいのに、目下の処、その気がないようだ。
「何を、考えていらっしゃるの?」
杏子にいわれて、三郎は、ハッと、自分に還った。
「いやね、君を見ているうちに、君のお姉さんのことをつい、思い出していたんだ」
「どっちの姉ですの?」
「社長夫人のほうだ」
「どういうこと?」
「内証にするか」
「するわ」
「いいひとだけど、ちょっと、でしゃばる傾向があるね」
「同感だわ」
「殊に、会社のことにまで、口を出すのは、どうも感心しないな」
「そうよ。すこし、お兄さんがピシャッとおっしゃればいいんだわ」
「出来ないね」
(中略)

「あッ、あたし、大変なことを忘れていたわ。ご相談、いいえ、ご報告しておきたいことがあったのよ」
「どういうこと?」
「姉が、社長夫人の方よ、昨夜、ウチへ来て、あたしに、三原商事の秘書にならないか、というのよ」
「君に?」
「そうよ」
「どうしてだろうな」
「梨子姉さんのあとに、男の方を秘書にしたんだけど、やっぱり、女の秘書の方が、あたりが柔らかくていい、ということになったんですって」
「しかし、それなら、社内に、いくらでも、それにふさわしい女事務員がいる筈じゃあないか」
「ところが、これは、社長さんの意見だと、社長夫人の姉がいうんですけど、いろいろと機密を扱うことになるから、出来れば、身内の者がいいだろう、ということになったんですって」
「すると三代目の女秘書か」
(中略)

三郎は黙り込んだ。会社の重要なポストを、どうして、そう身内ばかりで固めようとするのだ、と不満だった。弊害は、はかり知れない。そういう意味でも、彼は、三原商事へは、絶対に戻りたくなかった。そして、杏子を、秘書にする、という案には、当然、桃子が関係している、というよりも、寧ろ、彼女の案と思うべきであろう。

薀蓄

 1958年8月より1959年2月まで「週刊明星」(今は無くなった芸能週刊誌ですね)に連載。
 この頃は丁度「西鉄ライオンズ」の全盛時代で、長嶋が巨人に入団。プロ野球ブームの時代であった。タイトルはプロ野球の「最高殊勲選手」のもじり。時代を感じさせます。
 物語の人物構成だが、まず、野々宮林太郎一家である。父親が林太郎、母親が杉子、桃子、梨子、杏子、楢雄の一男三女の子供がいる。林太郎は、停年間近のサラリーマンで経理課長。要するに野々宮一家は庶民である。ところが、長女桃子が、勤めていた三原商事の社長の三原一郎に見初められて結婚して社長夫人となり、次女梨子も社長の弟次郎と結婚している。そして、上にあるように、三女杏子も三原商事に秘書として勤める。
 社長の末の弟三郎は、兄の会社には入らず、大島商事に勤めている。
 社長夫人の桃子は、三郎を三原商事に戻し、杏子と結婚させたがっている。そして、そのために色々と画策する。当事者の二人は、その姉の出しゃばりにヘキヘキしながらも、お互いのよさに気がつき、ついには結婚する、というお話。
このお話で一番問題なのは、タイトルでしょう。このタイトルでは、桃子が主人公で八面六臂の活躍をして、若い二人の恋仲をとりもつ、ように見えますが、話の中身では、桃子は悪役で、桃子のおかげで、話がこじれることも少なくなく、一寸「最高殊勲夫人」と言えるような活躍はしていません。連載前は、源氏さんは別のストーリーを考えてこのようなタイトルにしたということなのでしょう。

 一時角川文庫でよめた。現在絶版の筈。


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