女性自身

さわりの紹介

 「ところが」
 マダムは、孝平のほうを見て、
 「多久さんときたら、まるでダメ」
 と、断定するようにいった。
 「あたし、そんなことないと思うわ」
 円子が、孝平のために抗議をするようにいった。
 「あんたは、黙ってらっしゃい」
 「はい」
 「多久さんたら欠点だらけよ」
 「もういいよ、マダム」
 孝平がいった。
 「めったにないことだから、今夜は、がまんしてお聞きなさい」
 「聞くよ」
 「最大の欠点は、女にほれっぽいことよ。なってないわ。それくらいなら、うまく女をだませばいいのに、そういう方法も知らない。要するに、一人前の男性でない証拠よ。罪つくりでもある、ということ」
 「よーし。これから、せいぜい、女をだます練習をするよ」
 「できるもんですか。だから、あたしは、見ていて、放っとかれないのよ。悪知恵をつけてやりたくなるの。ほら、できの悪い子って、よけいかわいそうになるというでしょう?あれよ」
 「とうとう、できの悪い子にされてしまった」
 「ありがたく思いなさい」
 「思うよ」
 「だったら、あたしのいうことをまもって、軽蔑されることぐらい平気になって、この矢代さんに結婚の申し込みをしなさい」
 「あら」
 真理子がいった。
 「困るよ、マダム」
 柴北がいった。
 「どうなのよ、多久さん」
 マダムは、柴北を無視するようにしていった。孝平は、真理子を見つめている。
 真理子の胸は、大きく波立っていた。円子は、不愉快そうに唇をゆがめている。
 「どうなのよ、多久さん」
 マダムは、重ねていった。孝平は、なにかいいかけている。真理子は、その孝平の言葉を聞くことが恐ろしくなっていた。いや、聞いてみたいのだ。しかし、かりに結婚の申し込みを受けたのであっても、昨日今日のことを考えれば、軽々しく、それに応じることはできないのである。河瀬高子のことはべつにしても、悠美子とホテルに十回以上も行っている男なのだ。いやだった。そんなことでは、真理子の自尊心が許さないだけでなしに、友情を裏切ることになる。一生、心のシコリとして残るであろう。
 しかし、孝平のほうから、結婚の申し込みなんてまっぴらだ、と、はっきりいわれることは、真理子にとって、もっともいやだった。絶対に、いやだった。
 すでに、真理子の結論は出ているのである。
 「あたし」
 真理子は、いっておいて、一呼吸を入れてから、
 「それでしたら、こちらのほうからおことわりします」
 と、きっぱりといった。
 「しめた」
 柴北が快哉を叫ぶようにいった。
 「だろうと思っていた」
 孝平は、沈んだような口調でいってから、マダムに、陽気な笑顔に戻って、
 「お聞きのとおりですから」
 「そう。だったら、しかたがないわね」
 マダムは、あっさりと認めたが、しばらくたってから真理子の耳にささやいた。
 「嘘つきね」
 「えッ?」
 真理子は、しかし、マダムの顔が見られなかった。

Tの感想・紹介

 「女性自身」は、1960年6月から61年3月にかけて雑誌「女性自身」(光文社)に37回にわたって連載された長編小説。女性週刊誌の名称を借りてタイトルにしただけのことはあって、構成のしっかりした佳編である。

 主人公は22歳のOL、矢代真理子。同僚の女性には「ボールちゃん」とよばれる、やや丸顔の自分では「絶世の美人というわけにはいかないが、月並み以上ではあるような気がして、どこかチャーミングだと思う」ような女性である。まあ、平凡な一見どこにでもいる女性と言っていいのだろう。でも、この主人公、とてもはつらつとしていてかっこいいのである。行動が潔い。魅力ある主人公の造形が本篇の魅力を形成しているように思える。

 会社帰りに真理子が銀座を歩いていると、泣きはらした、同僚の藤原悠美子に声をかけられる。同じ会社の多久孝平に振られたという。半年前に悠美子は、孝平から5万円借りた(尚真理子の月給が11000円の時の5万円である。念のため。)。しかし金を返せない。悠美子はお金を返さない代わりに結婚したいというが、にべも無く断られる。悠美子は真理子に孝平の行きつけのバー「ホワイト」に行って、孝平を連れてきて欲しいと頼む。 仕方なしに引き受けた真理子は、バー「ホワイト」に行くが、酔漢に絡まれる。そこを孝平が救ってくれる。真理子は孝平を連れて、悠美子のいる喫茶店に戻るが、すでに帰宅した後。ここで、悠美子のわがままでいい加減な性格が明示される。

 真理子には姉真喜子がいる。真喜子は、会社の同僚で40歳にして独身のプレーボーイ、船井と恋愛関係にあったが、捨てられる。しかし、不実な船井を忘れることが出来ない。真理子は、このことを真喜子と同じ会社の柴北に知らされる。真理子は船井と姉との結婚が良い解決法だとは思わないが、姉の一途な気持ちを知ると、姉と船井をなんとかして結び付けたいと思う。

 一方、真理子は、同じ課の石本伊三郎に結婚を申し込まれる。また、柴北にも愛を告白される。石本は仕事にミスが多く、廻りから軽く見られているが、強引である。石本は、孝平と真理子とが接近することを牽制し、悠美子と孝平とを結婚させようと画策する。孝平には、幼馴染で美人編集者の河瀬高子が結婚したいと言っている。悠美子は「孝平と10回以上ホテルに行った」と嘘をつき、その他色々と画策して、孝平と真理子や高子との関係を壊そうとして、自分の恋を成就させようとするが、失敗し、自殺未遂事件を引き起こす。しかし、その結果冷静になり、真理子と孝平との関係を祝福する。また、柴北と河瀬高子は、振られたもの同士で結ばれる。

 船井は、真喜子と自分とを結婚させようとする真理子を見て、長年の独身生活に終止符を打って、真理子と結婚しても良いと考える。船井は、彼一流の考え方がある。船井は、これまで結婚を条件として、女性に接したことがない。独身だから、相手がそう考えたとしても、それは相手の勝手である。真喜子についてもそうであり、真喜子が結婚したがったことで関係に終止符を打とうとしたに過ぎない。こういった男の理屈に対して一途に姉と結婚してくれるように頼む真理子を、船井は抱きしめようとする。それを孝平がつきとばしてみせる。

 源氏鶏太は、モラルに対しては非常に保守的であった。多くの作品で船井のような男性の理屈で動く人間は、敵役として、やっつけられる。本篇の登場人物はある意味で非常に類型的であり、ヒーロー、ヒロイン、脇役、敵役がそれぞれ典型的に造形されている。しかし、登場人物の動きに無駄がなく、ストーリーの動きとよく調和している。練られた作品であり、味わいがある。

 映画化は1962年東宝による。5月22日封切り。83分。福田純監督。矢代真理子役が藤山陽子、姉真喜子が原知佐子、藤原悠美子が浜美枝、多久孝平が佐原健二、石本伊三郎が藤木悠、船井が伊藤久哉という配役であった。

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