男性無用

さわりの紹介

 しかし、こういうのは、本当に立派なのだろうか、との疑問を感じていた。いい換えれば、未練たらしい、ということにもなるのではあるまいか。それにいづみは、千恵という女には、惚れ甲斐がないような気がしてならないのであった。もっとも、世間では今村や千恵のように、惚れ甲斐のない人間ばかり惚れられているのかもわからない。
 (そして、あたしのように惚れ甲斐のある娘には、だれも惚れてくれないんだわ)
 いづみは、秘かにそんなことを考えて、何となく不満を感じていたのだが、そのあと、あわてて、
 (うっかりしていたわ。あたしには、当分の間、男性無用であったのに!)
 と、思い直した。
 しかし、男性無用は、あくまで理論であり、理性であり、いづみの本能は、そういう理論と理性を無視して、男性を求めているようであった。いづみは、当惑した。困るのである。困りつつ、いづみは、
 (でも、そのうちに、あたしの男性無用論を吹っ飛ばしてくれるような素敵な男性が現われてくれるかもわからないわ)
 と、期待していた。
 他人にはどう見えようが、自分にとってさえ素敵な男性であればいいのである。しかし、その理屈から行くと、千恵にとってあの今村がそうなのかもわからないのだ。とすれば、いちがいに千恵をバカな女というわけにもいかなくなってくるようだ。
「どうしたの?」
 見ると、小野瀬敬子であった。目顔でいづみに笑いかけていた。土曜日の夜、あんなことがあって、いづみは、敬子に対して、今までとは比較にならぬ親近感を覚えていた。冗談ではなしに、この敬子と叔父の宮沢健吉と結婚させたら、と考えているくらいなのである。

作品の話

 「男性無用」は、「週刊読売」の昭和36年3月5日号から12月31日号まで連載された。源氏鶏太の数多い作品の中でも比較的傑作の一つである。

 主人公は宮沢いづみ22歳。銀座に近い会社に勤めるビジネス・ガール。彼女は、会社の同僚の川奈千恵から、美貌の恋人今村睦夫が婚約解消を言ってきたことについて、その本心を聞いてくれるように頼まれる。いづみは、今村に同道していた倉井朗太と出会う。今村が千恵と婚約解消を言って来たのは、部長の娘・冨田裕子との結婚話が持ちあがったためであった。男性の不実な行動に、いづみは、男性無用論を思いつく。
 いづみには42歳にして独身、売れっ子のイラストレーターである叔父・健吉がいる。健吉は、かつて現在は未亡人の女社長・堂前左木子と恋中であったが、左木子が大金持ちと結婚したため、捨てられる。その時の失恋の痛手でまだ結婚しないでいる。
 いづみが、今村や朗太と会って、暗澹たる気持ちで銀座を歩いていると健吉とばったり出会い、更に偶然左木子とも会う。一方、川奈千恵を片思いしている黒さんこと大浦圭吉がいる。いづみは、健吉と夕食を食べ、その後別れて銀座を歩くと、この黒さんと会う。黒さんに誘われてトリスバーに行くと、今村と朗太に再会する。そこには、偶然いづみの会社のオールドミス
・小野瀬敬子がいる。敬子は、今村と朗太をやっつけ、二人は退散する。

 いづみが一日に会う数人が本作の主要な登場人物。最初の一日で、主要な登場人物を伝聞も含めるとすべて出してしまうと云うやり方である。考えて見れば、実にご都合主義である。現実に銀座を歩いていて、知り合いと出くわすなんていうことは滅多にない。それを敢えてやって見せる。しかし、それがあまり不自然に感じさせない。そこが、作者の技量であろうと思う。

 この最初の一日目に登場する人物達による数組のカップルが織り成す恋愛模様。基本的には、善玉の恋愛は成就し、悪玉の恋愛は破綻する、という勧善懲悪型のストーリー。そこに、源氏鶏太の倫理観が浮いて見える。発表当時、その倫理観が読者に受け入れられた、ということも時代を感じるところである。

 それでも本篇の面白さは格別である。登場人物の描き方が定型的ではあるが、その枠に収まらない自然さがある。源氏鶏太はうまく誇張を使って、笑わせようとするのであるが、本書では逆に抑制的に登場人物を描いている。その抑制の中の登場人物の日常に、人間の良さもいやらしさも示してみせる。

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