どくたーTのオペラベスト3 2003

第1位 4月3日  新国立劇場
ワーグナー作曲「ジークフリート」
字幕付原語上演  会場 新国立劇場オペラ劇場

第2位 6月14日  NHK交響楽団第1490回定期演奏会
リヒャルト・シュトラウス作曲「エレクトラ」
字幕付原語上演、会場 NHKホール

第3位 3月18日  藤原歌劇団公演
ロッシーニ作曲「イタリアのトルコ人」
字幕付原語上演  会場 東京文化会館大ホール

ベスト歌手
中鉢聡(テノール)

優秀賞 
ドニゼッティ作曲「当惑した家庭教師」(東京オペラ・プロデュース公演、2/23)
ベッリーニ作曲「ノルマ」
(日本舞台芸術振興会公演、4/21)
プレヴィン作曲「欲望という名の電車」
(東京室内歌劇場公演、6/11)
グノー作曲「ロミオとジュリエット」(藤原歌劇団公演、10/14)
ベルク作曲「ルル」(日生劇場/東京二期会公演、11/22)
(優秀賞は上演順)

特別賞
サリヴァン作曲「ユートピア国株式会社」(大須オペラスーパー一座公演、8/17)

選考理由

 2003年は、32本のオペラを鑑賞することができました(演奏会形式を含む)。全体的に感じることは、総じて水準が上がったな、ということです。日本人歌手でもトップクラスの面々は、外人の中堅クラスと十分に張り合えます。指揮者も日本人若手に良い人材がいます。もし、海外に未だ負けているとすれば、演出と舞台を作り上げて行く総合力ではないか、という気がしております。全ての点で満足させられる演奏はなかったのですが、総じて水準が高かったのかな、というように思います。

 とりあえず、8本の秀作を上げましたが、勿論その他にも注目すべき上演がありました。まず、新国立劇場1月公演、一柳慧の新作オペラ「光」を挙げます。このオペラ作品としての評価はこれから固まるのでしょうが、上演自身は、若杉弘/東京交響楽団の演奏、そして井原秀人、釜洞祐子、菅英三子らの努力で、よいものに仕上っていたと思います。

 次に五十嵐喜芳音楽監督退任記念、新国立劇場「アイーダ」があります。これは、新国立劇場開場記念公演の再演だったわけですが、ノルマ・ファンティーニのアイーダを初め、主要五役の方々の歌唱がよかったこと、ゼフィレッリの舞台が美しかったことで、歌、演奏、演出のどれもが水準以上の非常に優れたものでした。図抜けた何かを感じられなかったので、優秀上演にはいれませんでしたが、オペラらしいオペラという意味では、今年随一の上演だったと申し上げてよいと思います。

 新国立劇場ノヴォラツスキー新芸術監督の第1作、「フィガロの結婚」もまた注目すべき上演でした。新国立劇場の大きさからすると、こじんまりとした上演だったと思いますが、演出の意図が明確で良かったと思います。

 優秀賞5公演は、それぞれに異なった魅力のある上演でした。

 東京オペラ・プロデュース公演「当惑した家庭教師」は、このような楽しいブッファを初めて日本に紹介した、という関係者の見識をまず高く評価します。また、上演自体もヒロイン役の羽山弘子の軽快な歌唱もあり、非常に締まった生気のある上演になっていて本作品の楽しさを理解するに十分なものでした。ただ、お客さんがあまり多くなかったことが残念。来年1月再演されますので、まだご覧になっていない方には是非お薦めしたいです。

 次の「ノルマ」は、グルベローヴァが初めてノルマ役に挑戦するということで話題になった公演です。さすがグルベローヴァです。素晴らしい「ノルマ」でした。大歌手のオーラを感じました。共演者のカサロヴァも抜群によく、それ以外は今一つの部分が少なくなかったと思うのですが、この二人の歌手のみで優秀賞に選びました。

 東京室内歌劇場の「欲望という名の電車」日本初演も、また私の中で評価の高い公演でした。若杉弘の音楽づくりも妥当なものでしたし、主役の松本美和子の歌唱には凄絶な美しさがあり、その色気は聴き手を圧倒させずにはいられないものがありました。これまで,私も何回か松本の歌を聴いておりますが、その印象の深さにおいて、今回のブランチを越えるものはなかったように思います。

 藤原歌劇団の秋公演「ロミオとジュリエット」は、全体としての音楽的水準は決して高いものではなかったと思いますが、主役の二人、特にジュリエット役・高橋薫子の名唱を評価してのランクインです。高橋は、従来日本一のスーブレットだった訳ですが、最近やや声が太くなったようです。その結果として、夢みる少女から女に変身していくジュリエットという役柄を見事に表現出来たということなのでしょう。中鉢聡もまだまだ細かな技術的課題はあるとおもうのですが、声もルックスもよく、今後期待出来ます。

 日生劇場開場四十周年記念公演「ルル」は、日本オペラ団の総合的力量を評価してのランクインです。私は,佐藤信の演出を評価するものではないのですが、沼尻竜典指揮の東京フィルハーモニー交響楽団の明瞭な演奏、タイトルロールの天羽明恵以下歌手陣の頑張りは、2003年時点での日本オペラ界の水準を示す上で、非常に適当なものだったのではないでしょうか。

 ベスト3は、優秀賞で選択した公演よりも更に音楽的魅力があった上演です。まず第3位の藤原歌劇団春公演「イタリアのトルコ人」は、Bキャストを拝見しましたが、佐藤美枝子のフィオリッラが抜群によく、また、日本人主体のグループだったせいかチームワークも抜群で、非常に見応えのある公演でした。佐藤の第2幕の大アリアは、本年聴いた全てのアリアの中で私のいち押しとするものです。

 第2位の「エレクトラ」は、音楽づくりの魅力でしょう。確かにコンネル以下の歌手陣もよかったのですが、この演奏会をもって音楽監督を引退する、シャルル・デュトワの音楽づくりの素晴らしさは筆舌に尽くしがたいものがあります。こういう演奏を聴くと、結局オペラは音楽の総合力なのだと言うことがよくわかります。デュトワ時代にN響は実力を一段と向上させましたが、そのデュトワ/N響の底力を大いに発揮してくれた公演でした。第1位の「ジークフリート」と第2位の「エレクトラ」との差は、結局舞台上演をしたかしなかったかの差だけだと思います。実に高水準の演奏でした。

 第1位の「ジークフリート」。やはりオペラは舞台を見るものです。「ラインの黄金」のときは度肝を抜かれたキース・ウォーナーの演出も見る側は慣れてしまい、好きにはなれないものの、それほど気にならなくなりました。音楽的にはオケ・ピットの中にN響が入った効果が大きかったです。やっぱりN響の実力は日本最高ですね。そして指揮が準・メルクルですから、音楽の土台がしっかりしています。その土台に乗って歌うクリスチャン・フランツ(ジークフリート)の美声、ゲルハルト・シーゲル(ミーメ)の表現、実に感心致しました。極めて水準が高い演奏でした。

 特別賞は、オペラとしてはゲリラ的ですが、大須オペラのオペレッタ「ユートピア国株式会社」に与えます。これは、クラシックのオペラとして聴けば邪道ですが、浅草オペラ的楽しさが一杯詰まっており、音を楽しむという音楽の本来の意味をよく示していました。

 ベスト歌手は井原秀人、佐藤美枝子、松本美和子、中鉢聡、高橋薫子、天羽明恵、が候補です。どの方の歌唱もそれぞれに素晴らしかったのですが、「アラベッラ」におけるマッテオ、「ノルマ」におけるフラヴィーオ、そして「ロミオとジュリエット」におけるロミオ、と進境著しい中鉢聡を選びましょう。

 2003年のオペラシーンにおけるT的ベストは以上のとおりです。尚、例年の如く本選考に賞品はありません。選ばれた方には、「おめでとうございます」を申し上げます。

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